短文 人差し指劣等生 「俺、前世は人指し指劣等生だったんだよ」 出し抜けにそう言われた門田は、不快感を隠そうともせず思いっきり眉をひそめた。「丸井先輩、残業続きでとうとうおかしくなりましたか」「まあまあ聞け聞け」「すみませーん、お冷ふたつくださーい。あ、あとハイ... 2021.02.21 短文
短文 雪の布 「ねえ修ちゃん。あの電車に乗ったら、どこまで行けるかな」 走り去った特急電車の後ろ姿を見つめながら、冬子は言った。「東京まで行くみたいだよ」 小学校に行く前に、河川敷の向こうを走って行く電車を眺めるのが二人の日課だった。冬子は土手の斜面に座... 2021.02.17 短文
短文 音楽室の猫 「はじまるよ」 ピアノの前に座りながら彼女は言った。黒い長いワンピースは、腰まで伸びた真っ直ぐな髪と同化しているように見える。 一方の僕は、うとうとしながらピアノの音を聴いていたから、頭がまったく鈍ったままだった。彼女が言葉を発したというこ... 2021.02.07 短文