カケラ

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(……お腹痛い)夜8時、会社のトイレの個室で、

(……お腹痛い)夜8時、会社のトイレの個室で、体を折り畳みながら腹を抱えて田村直也は耐えていた。ここ数日、クレーム対応に追われて心休まる暇もなかった。残業続きの毎日で、今日もまだ帰れそうにない。(まだ水曜日……帰りたい。仕事嫌だ)ふいに、ド...
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敵からの電撃攻撃に、私はかろうじて防衛魔法を展開していた。

敵からの電撃攻撃に、私はかろうじて防衛魔法を展開していた。しかし力の差がありすぎる。身体中バラバラになりそうな痛みで気を失いそうになる。負けてたまるか、と自分を奮い立たせ、咆哮する。ふいに背中から支えられる感触と、叫び声が聞こえた。振り向く...
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「葵、今日自転車で来なかったのか?」

「葵、今日自転車で来なかったのか?」「いやあ~……自転車で来たよ?」「じゃあ早く取って来いよ。さっさと行ってテスト勉強の続きしなきゃだし」「……千尋くん、ちょっとお願いがございましてね。あのですね、ワタクシ、チャリキーを教室に忘れましてね」...
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「私には何もない」

「私には何もない」夜の公園のベンチに座って、俯きながら私はこぼした。街路灯がそばにあるので暗くはないが、気持ちはぐんと沈んでいる。「何にもないことないと思うけどなあ」ラフなシャツとチノパンに身を包んだ甲斐はだらしなく座りながらそう言った。「...
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下駄箱をひとつひとつのぞいていく。

下駄箱をひとつひとつのぞいていく。いくら探しても私の靴が見当たらない。「あった~?」蒼太が顔をひょいと出し尋ねてきた。私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも首を横に振った。「エントランスいくつかあるけど、ここのであってる?」「……わか...
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祈りなさい、と真っ暗な部屋の中でシスターは言った。

祈りなさい、と真っ暗な部屋の中でシスターは言った。僕らは怖くてガタガタ震えていた。外では鉄砲の音が響いていて、今にも兵隊がここに押し入ってくるかもしれない。シスターは、手を組み合わせ目を閉じ、口の中で小さく聖書の一節を唱える。僕たちは顔を見...
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被害者の部屋はひどく殺風景だった。

被害者の部屋はひどく殺風景だった。こだわりがあってシンプルにしているという類ではなく、統一感がなく、ちぐはぐで、バラバラだった。「荒らされた形跡はないですね」俺の背中から顔をひょいと覗かせて相棒の渋谷が言う。ああ、と相槌を打って俺は部屋の中...
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リサはただ黙って私にしがみついていた。

リサはただ黙って私にしがみついていた。僕はリサが落ちないように注意しながら抱きかかえ、歩いていた。高い体温が、僕の胸を温める。「さっきは大声出したから、びっくりしたよね。ごめんね」できるだけ優しく話しかけたつもりだったが、リサは堪えきれなく...
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彼は〈ドローイング〉の接続機器を頭から外し、そうして絵を見た。

私は満足げに、彼の絵を見ていた。彼は〈ドローイング〉の接続機器を頭から外し、そうして絵を見た。「どう? あなたのイメージしていた通りに描けているでしょう?」〈ドローイング〉は、脳内のイメージを描き起こしてくれる画期的な発明で、我が社が今一番...
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「オレは外国に行くんだ」

「オレは外国に行くんだ」ジャングルジムの上でコウくんはそう言った。僕はコウくんを3段下から見上げていた。「旅行に行くの? いいなあ」「違うよ。大人になったら、日本じゃなくて外国で暮らすんだ。世界から見たら日本なんて本当に小さいんだぜ。一生閉...