カケラ

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(頭痛がする)

(頭痛がする)雨の降る街並みを窓越しに眺めながら、直道はこめかみを抑えた。ここ数年、天気が崩れると頭痛がするようになった。頭痛とともに思い出すのは、大学時代に付き合っていた後輩のことだ。彼女も、気圧の変化で頭痛がすると言っていた。初めて聞い...
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始まりは、一人の友人だった。

始まりは、一人の友人だった。彼女が恋人と別れて悲しんでいた。私はその苦しみを少しでも和らげたかったから、慰めの言葉をかけた。大切な友人だったから、私は真剣に彼女に語りかけた。半分、説得に近かったかもしれない。その日以来、友人は元気を取り戻し...
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「喜びたまえ。常人でしかない君の世界をこのオレが変えてあげよう」

「喜びたまえ。常人でしかない君の世界をこのオレが変えてあげよう」そう言って東堂くんは、僕の額をトンと押した。強い力ではなかったけど、ビリリと電流が走ったかのような衝撃があって、僕は思わずしゃがみこんでしまった。僕は立ち上がれずに、額を抑えた...
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花火なんて何が楽しいのか

花火なんて何が楽しいのか、わからなかった。持っている間なんとなくその火を見つめたり、歩き回ったり、降ってみたり。僕は毎回花火をするたびに、テンションが上がるわけでもなく、正直手持ち無沙汰だった。周囲の友人がはしゃいでいる雰囲気からはみ出さな...
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「たったワンシーンで良かった」

「たったワンシーンで良かった」茹だるほどの暑さの公園のベンチで僕らは二人並んで腰掛けていた。耳鳴りするほど蝉が鳴いている。「あの人と過ごした時間は穏やかで幸せだった。でもね、映画とか小説とかに出てきそうな、鮮烈に残るシーンがあったら良かった...
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彼の作る味噌汁は、少し薄い。

彼の作る味噌汁は、私が今まで飲んできたものと比べて、少し薄い。そう感じていたはずだった。久々の外食で、彼と定食屋に行った。私は生姜焼き定食を、彼は鯖の味噌煮定食を注文した。生姜焼きの濃い味は炊き立てのご飯に合って、箸が進んだ。味噌汁をすすっ...
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彼女は上機嫌で鼻歌を歌っている。

彼女は上機嫌で鼻歌を歌っている。耳を澄ますと、パンケーキパンケーキと、適当に何度もつぶやいているようだ。彼女と僕は、廃墟の中、カセットコンロを挟んで地べたに座っていた。カセットコンロの上には、フライパンと、焼いている途中のパンケーキが乗せら...
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葵が教室に入ってきたので

葵が教室に入ってきたので、千尋は挨拶を交わした。すると、葵はしょんぼりと目を逸らしながら小さな声でおはようと返した。「どした、なんか元気ないけど」葵はちらりと千尋の様子を見てから、彼の席から少し距離をとったところで立ち止まった。「今日夢でさ...
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「夢の中ならどこにでも行けるって」

「私気づいちゃったの。夢の中ならどこにでも行けるって」野原で寝そべりながら彼女は言った。風は、夏のあたたかさをほのかに運んでくる。「フランスでもパリでもニューヨークでも、どこでも。それだけじゃない」彼女は胸の上に置いていた麦わら帽子を、自分...
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「自分は普通とは違うって言い訳をして」

「自分は普通とは違うって、言い訳をして逃げているだけだろう。社会に適応できないからって」男は銀色のライター(とは言っても、100円かそこらだろう)でタバコに火をつけた。今時電子タバコじゃないのも珍しい。「逃げないことが悪とは思いません。いじ...