カケラ 写真フォルダの中に見た覚えのないデータが 写真フォルダの中に見た覚えのないデータが入っていることに気がついたのは、以前食べにいったスーパービックバーガーの写真をクラスメイトに見せようとして、スマートフォンを操作していた時だった。その時は急いで画面をスクロールした。なぜなら、気づかぬ... 2021.06.16 カケラ
カケラ 「宇宙よりも遠い場所にパパはいる」 「宇宙よりも遠い場所にパパはいる」三崎さんにそう言われて僕は「天国?」と聞いた。死んだ人はお星様になると、ママが以前言っていたからだ。「ううん。海の底」その言葉に、僕は目の前の海を眺めた。穏やかに行ったり来たりする波。左手の漁港に停まる船。... 2021.06.15 カケラ
カケラ 「千尋~。おはよう~」 「千尋~。おはよう~」葵がそう呼びかけると、千尋と呼ばれた少年は足を止め振り向いた。「おう、一緒のバスだったのか」「うん。中で気づいたんだけど、混んでて移動できなくて声かけれなかった。雨本当めんどいね」普段は二人とも自転車で通学しているが、... 2021.06.14 カケラ
カケラ 「逃げようとしても無駄だよ」 「逃げようとしても無駄だよ。私の糸は、決して解けない」蜘蛛はそう言った。なるほど、手を動かそうとしても、がんじがらめにされた糸がギシギシと音を立てるだけで、拘束が緩まる気配はない。「僕を食べるのか」蜘蛛は捕食した後、捕食者の体に毒を注入する... 2021.06.11 カケラ
カケラ 教室は嫌な空気に包まれていた。 教室は嫌な空気に包まれていた。田中くんの机の中に、ゴミが詰め込まれていて、それを誰がやったのか、という議題で緊急学級会が開かれているからだ。「それじゃあ、みんな机に伏せてください」担任の古川先生が、教壇に両手をついて少し前のめりになりながら... 2021.06.10 カケラ
カケラ 見知らぬ男について行って 見知らぬ男について行ってカフェに入ったのは、その男がマーシャの名前を口にしたからだった。その名前を聞いた瞬間、 僕の心が一気に逆立つのがわかった。僕が世界で唯一許すことができない女だ。僕は改めて、目の前の男を盗み見る。ワイシャツは新品ではな... 2021.06.09 カケラ
カケラ 「私ね、この薬指が」 「私ね、この薬指が誰かのものになるのが夢だったの」包帯でぐるぐる巻きにされた左手を、愛おしそうに撫でながら彼女は言った。僕は目の前に置かれた、小さな箱に視線を落とす。綺麗にラッピングされた、万年筆でも入っていそうな、小さな箱。「開けないの?... 2021.06.08 カケラ
カケラ じんじんと頬の痛みがやってきた。 じんじんと頬の痛みがやってきた。手を添えると、感覚は鈍く、熱を持っていた。僕は首をひねり、正面に立つ少女を見上げた。少女の右手は僕を叩いたからか、居心地が悪そうに、宙ぶらりんだった。「誰かに必要とされたい、愛されたいって、あなたは、求めてば... 2021.06.07 カケラ
カケラ 彼女が朝食を作っている後ろでは 彼女が朝食を作っている後ろでは、ジャズが流れている。スマートフォンから流れるチープな音に過ぎないが、それでも彼女は優雅にステップを踏む。「おはよう。楽しそうだね」同居人の声に、彼女は慌てて踊るのをやめる。「おはよう。もうちょっとで目玉焼きで... 2021.06.04 カケラ
カケラ 「結局のところ、僕らは捨てられたのさ」 「結局のところ、僕らは捨てられたのさ」ラーザの声にミミが見上げると、ラーザは廃棄物の山の上で気持ちよさそうに寝転がり、空を見上げていた。「捨てられた?」「もういらないってことさ」ラーザは適当に手に触れたものを持ち上げてみる。目の取れてしまっ... 2021.06.03 カケラ