「自殺に詳しいの?」
その問いかけに僕は驚いて顔を上げた。僕だけがいた教室に、前園君が入ってきたのはわかっていたけど、まさか話しかけられるなんて思っていなかったから。
僕は思わず、読んでいた「自殺の仕方」を閉じて、表紙を下にして机に置いた。本を隠すように手を置いてみたが、後ろめたさは消えなかった。
「ま、前読んだ小説が……小説で、自殺が出てきたから、その内容が合ってるのか、正確性を確認するのに読んでみているだけ」
あらかじめ考えていた言い訳をなんとか絞り出した。前園君は、ふうんと言いながら、僕の手の下からひょいと本を取り上げてパラパラとめくり出した。僕はどうしていいのかわからず、ただその様子を見つめていた。
前園君は、クラスでも目立つ人だ。いつも何かと問題を起こしている。制服は改造しているし、髪を突然金色に染めてきたり、遅刻したり早退したり。噂に過ぎないが、夜にゲームセンターで補導されたりもしているとか。
(そんな、不良には見えないんだけどな)
僕は彼のその振る舞いに、違和感を覚えていた。どちらかというと彼は、大人しい人ではないかと感じていた。ひょっとしたら仲良くなれるかもと。クラスの隅っこの方で、好きな本の話とか、漫画の話とか、そんなささやかな楽しみを共有できたりするのではないかと、そう思っていた。
「自殺未遂の仕方、教えてよ」
前園君は本を僕に差し出しながらそう言った。
何で、と僕は返した。
「一家団欒のためさ」
この言葉の意味を理解できたのは、前園君ともう少し親しくなってからだった。