「千尋~。おはよう~」

「千尋~。おはよう~」

葵がそう呼びかけると、千尋と呼ばれた少年は足を止め振り向いた。

「おう、一緒のバスだったのか」
「うん。中で気づいたんだけど、混んでて移動できなくて声かけれなかった。雨本当めんどいね」

普段は二人とも自転車で通学しているが、今日は雨が降っていたためバスで登校してきた。二人は傘をさし、並んで歩きだした。学校まではバス停から5分ほどだ。

「今日の体育なにすんだろ?」
「サッカーは無理だろうから、バスケとかやるんじゃね」
「えぇ~千尋の活躍見れなくて残念~」
「経験者って、結構気使って大変なんだぞ」
「そういうもんか」
「そういうもんだ」

しばらく二人は無言になった。パタパタと、雨が傘に音を降らせる。

「お昼、購買行こうね」
「……葵は弁当だろ」
「今いちごみるくにはまっててさ」
「ご飯といちごみるくとか、合わなすぎてやばくないか」
「えぇ〜全然いけるから!」

そんなことを話しているうちに、あっという間に校門に到着した。
雨の憂鬱さは、少し薄らいでいた。

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