葵が教室に入ってきたので、千尋は挨拶を交わした。すると、葵はしょんぼりと目を逸らしながら小さな声でおはようと返した。
「どした、なんか元気ないけど」
葵はちらりと千尋の様子を見てから、彼の席から少し距離をとったところで立ち止まった。
「今日夢でさあ、ゾンビに襲われる夢見たのよ」
「おお、ゲームっぽくて楽しそう」
「いや、ゲームみたいに銃なんてなくてさ。そのほかの武器もなんもなくて、装備ゼロ状態。そんでゾンビ4人に挟み撃ちされたんだけどさ、颯爽と逃げ出したよね。しかも……千尋置きざりにして」
「おぉ、俺も出てきたのか。俺どうだった? 戦った?」
「喰われてた」
千尋は盛大に吹き出した。
「それで、夢の中の葵はどうしたのよ」
「いや、ショックすぎてそこで目醒めた。3時だったんだけど、そこから1時間くらい寝れなかった、不甲斐なくて」
「いやいや、夢の中だろ」
「夢の中だから余計にへこむんだよ! 自分の深層心理に。……申し訳なさすぎるから今日購買でジュースおごるわ」
「やった棚ぼた」
「もうゾンビ映画で情けなく逃げ回るやつ笑えない……俺空手習おうかな……まじやヤツラに立ち向かえる気がしない」
「空手だとリーチ無いから厳しそうだけどな」
その日は、「どうすればゾンビに対抗できるか」談義に花が咲いた。