「宇宙よりも遠い場所にパパはいる」
三崎さんにそう言われて僕は「天国?」と聞いた。死んだ人はお星様になると、ママが以前言っていたからだ。
「ううん。海の底」
その言葉に、僕は目の前の海を眺めた。穏やかに行ったり来たりする波。左手の漁港に停まる船。遊泳禁止だと先生にきつく言われているけど、足をつけて遊んだことくらいはある。
「宇宙よりも全然近いじゃん」
指差しながら僕は言った。
「宇宙には、空気も重力も何も無い。でも海の底には、水圧も、重力も、火山も世界最大の生き物も、500年も生きている生き物もいるのよ」
三崎さんはしばらく黙った。彼女の言葉が、僕の脳に染み込むのを待っていたのだろう。
「だから、パパは帰ってこれないの」
三崎さんは頭がいい。テストでもいつも100点や90点台を取っているのをみんな知っている。
なのにどうして、お父さんに関してはそんな嘘を信じ込んでいるのか、僕にはわからなかった。