彼女は上機嫌で鼻歌を歌っている。耳を澄ますと、パンケーキパンケーキと、適当に何度もつぶやいているようだ。
彼女と僕は、廃墟の中、カセットコンロを挟んで地べたに座っていた。カセットコンロの上には、フライパンと、焼いている途中のパンケーキが乗せられていた。
「君が今使っているカセットコンロ」
外の轟音で聞こえなかったのか、彼女は顔を僕のほうへ向けた。僕は少し声のボリュームを上げた。
「このカセットコンロのボンベを使えば、簡単な爆弾みたいな武器を作れる」
「まじで。怖い」
「それがあれば、敵を一度、撃退できるかもしれない」
「うん」
「そうしたら……少し、長く生きられる」
俺は彼女の顔を見つめた。彼女はいつの間にか視線を落とし、パンケーキをじっと見つめていた。
そう遠く無い場所から、爆発音が聞こえた。人の怒号、悲鳴。
そんな中、埃っぽい薄汚れた廃墟に閉じこもって、彼女と僕はパンケーキが焼き上がるのを待っている。
「それでも私は、パンケーキを食べたいよ」
薄汚れたフライ返しで、彼女は「よっ」と言いながら器用にパンケーキをひっくり返した。
「うん。なかなか上出来な感じ!」
「あとどれくらいで焼き上がる?」
「5分くらい?」
食えたらいいな、という言葉は飲み込んだ。
そんな俺をお構いなしに、彼女は、「楽しみだね」と笑った。