彼の作る味噌汁は、私が今まで飲んできたものと比べて、少し薄い。そう感じていたはずだった。
久々の外食で、彼と定食屋に行った。私は生姜焼き定食を、彼は鯖の味噌煮定食を注文した。
生姜焼きの濃い味は炊き立てのご飯に合って、箸が進んだ。味噌汁をすすってみて、私はぴたりと止まった。
「どうかした?」
彼が声をかけてくる。
「いや、味噌汁、少ししょっぱいなって」
どれどれと言いながら、彼は自分の味噌汁をすすって首を傾げる。
「別に許容範囲じゃない? 外食の味噌汁ってこんなもんでしょ」
そう言いながら、美味しそうに椀を傾けた。
「ねえ」
「ん?」
「好き」
そういうと、彼は味噌汁を喉に詰まらせようになったのか、勢いよく咳き込んでしまった。
彼の味噌汁の薄さになれるくらい、私たちは食卓を一緒にしてきたのだ。気づかないうちに、彼との生活が私の一部になっている。
「君はいつも訳がわからないな」
そう言って、彼は居心地悪そうに鯖をほぐし始めた。