始まりは、一人の友人だった。

始まりは、一人の友人だった。
彼女が恋人と別れて悲しんでいた。私はその苦しみを少しでも和らげたかったから、慰めの言葉をかけた。大切な友人だったから、私は真剣に彼女に語りかけた。半分、説得に近かったかもしれない。
その日以来、友人は元気を取り戻したようだったので、私は胸を撫で下ろした。友人の力になれて、嬉しかった。

数ヶ月後に、友人と、友人の大学の同窓生とお酒をともにする機会があった。
食事も酒もだいぶ進んで、皆良い感じに打ち解けてきた。
友人は彼に、「そうだ、この人に相談してみなよ。めっちゃいいアドバイスくれるから」と切り出した。

彼は職場での人間関係に悩んでいたようでかいつまんで要点を話し、「社畜は辛いぜ」と、軽い口調で話を締めくくった。
酒の場によくある愚痴のように話していたが、彼が無理をしていることは誰の目にも明らかだった。

それに対して当たり障りのないことを言うのが正しい処世術だったろう。
ただ、そのとき私は気持ちよく酔っていたし、以前友人にアドバイスをしたことで少し調子に乗っていたこともあった。

私は真面目な口調で、彼に質問を投げかけて、彼の心を探った。そして私が考えうる限りの解決策と慰めの言葉、後押しする言葉を彼に言った。

最初は軽く話していた彼が、だんだん前のめりになり、また私たちの間に熱のようなものが現れるのを感じた。興奮、共感、一体感。なんとも不思議な体験だった。

帰り際、店の前で解散しようとした時、彼に改めて感謝された。
私は、私なんかでも役に立てるのだと、嬉しくなり、誇らしくなった。


(……そう。初めは、たった、それだけだった)


「先生」

呼ばれて、はっと顔をあげる。白い服を着た友人が、私を見つめている。

「お時間です。ご登壇を」

私は小さく頷いて、壇上に出た。目の前には、会場の席を埋め尽くす、白い服を来た人たち。
皆一斉に立ち上がり、全力で拍手を送っていた。


(目の前の誰かが、元気になる。それだけで、良かった)


どうしてこうなってしまったのだろう。

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