被害者の部屋はひどく殺風景だった。こだわりがあってシンプルにしているという類ではなく、統一感がなく、ちぐはぐで、バラバラだった。
「荒らされた形跡はないですね」
俺の背中から顔をひょいと覗かせて相棒の渋谷が言う。ああ、と相槌を打って俺は部屋の中に入った。
さっと部屋の中に目を通す。本棚、テレビ台、タンス、ベッド、台所。女性の部屋のわりに物は少ないが、特に変わった様子はない。
「なんていうか、愛着の感じられない部屋ですね」
渋谷のその言葉に俺は納得した。そう、愛着が感じられないのだ。
「……日々の生活に、執着がなかったのかもな」
被害者は胸をナイフで刺され、ここから遠い湖の底で発見された。他殺の線で捜査が始まっている。
(本当に他殺なのか?)
そう思わせてしまうほど、この部屋には生命を感じなかった。
彼女は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。