古めかしい喫茶店で、僕はココアをすすりながら、

古めかしい喫茶店で、僕はココアをすすりながら、対面している女性をちらちらと盗み見る。

頭にぴったりとフィットした帽子、黒くてウェーブがかかっている髪、白い肌に映える赤い口紅、かっちりした素材のワンピースは女性らしい曲線を描いて彼女の体を包んでいる。

(すっごく綺麗な人だ……)

彼女はブラックコーヒーには口をつけずに、窓の外をじっと眺めていた。
僕にとってはなんの変哲もない街並みだが、彼女にとっては珍しくてしょうがないだろう。

「本当に今は……失礼、なんでしたっけ」
「あ、令和です。命令の令に、平和の和」
「令和。なのね。……大正10年から、何年経ったのかしら」

大正10年と言われてぱっと西暦がわからなかった僕は、スマートフォンをそっと取り出して調べてみる。

「ええと、大正10年が1921年なので、あ、ちょうど100年です」

ひゃくねん、と彼女は言った。

「ちなみに大正のあとは、昭和と平成という元号もありました」

少し得意げに講釈をたれたが、彼女は上の空で「そう」とつぶやいただけだった。

彼女が外を眺めていたので僕も視線を移してみる。
自動車や信号機、行き交う人々。彼女の目にはどのように写っているのだろうか。

「本当に、時代を超えてきてしまったみたいね。それも、ふたつも飛び越えて」


彼女はタイムスリップをしてきてしまった、「モダン・ガール」なのだった。

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