自分の気持ちが可視化される病気にかかった。
感情の増幅によって、霧状のものが体から噴出してしまう。色や温度、量は私の感情によって変わっていく。
ちなみに治療法も特にはない。気づけば治っている人もいるし、ずっと治らない人もいる。
「まあ、汗みたいなものです。水分補給だけは多めにするようにしてください」
しかし医者から言われた注意事項はそれくらいだった。
原因も治療法もわかってはいないが、命や体の健康に関わるものではない。通院も投薬も必要ないとさえ言われてしまった。
なるほど、医学的には大きな問題ではないのかもしれない。しかし社会的にはかなり問題がある。
私は冷静な方だと自負していた。ところがどうだ。
弁当の卵焼きを食べればふわふわとオレンジの霧が発生し、上司にちょっと注意されれば灰色の霧がものすごい勢いで噴出する。
「感情表現が豊かな人だと思えば大丈夫。むしろあなたは今まで感情を表に出すタイプじゃなかったから、今くらいでちょうどいいよ」
友人の一人はそう評した。
しかし自分にこんなに感情があったことに、何より驚いた。
今までは目を反らしていたのかもしれない。
(これからは、きちんと向き合わなくてはいけない)
そう思うのにも理由があった。
会社で隣の部署の鈴木さんを見かけると、ふわふわと桃色の霧が発生するのだ。
私はいつの間にか、恋愛感情にも相当鈍くなっていたらしい。