僕は缶コーヒーとペットボトルのお茶を手に、美術館を出た。

僕は缶コーヒーとペットボトルのお茶を手に、美術館を出た。なんか不思議な形をしたオブジェとか噴水とかが配置されているのを横目に、僕は進む。
改めて考えてみても、美術館と自分はまったく似つかわしくなくて笑えてくる。まったく縁のない場所のひとつだっただろう。意中の人に誘われでもしなければ、だが。

オブジェの間を進んでいくと、ベンチに座る白鳥さんが見えてきた。小花が散らされた白いワンピース、キャスケット、布地のトートバック。どれも彼女にとびきり似合っていて、しばらく見惚れてしまう。

「おまたせ。お茶とコーヒー、どっちがいい?」

緊張しているのがバレないように注意しながら話しかける。白鳥さんは礼を言って、お茶を選んだ。オレは隣に腰掛け、缶コーヒーのプルを引く。

「中野君、初めての美術展はどうだった?」
「ああっと、初めてだから、すごい新鮮だった! 絵のことよくわかんないけど、なんていうか、あの空間が非日常で、良かった!」

本当は、良さなんて全然わからなかった。絵を見ても、どこかの橋を描いたのか、とかいう感想しか出てこなかった。

「それならよかった。私つい夢中になって見ちゃってたから。退屈させちゃってたら申し訳ないなって」
「全然全然!」

全力で否定する。正直美術の良さはわからなかった。だけど、真剣に絵を見る白鳥さんは本当に美しかった。そのへんの絵画よりもずっと。

「白鳥さんはいつから美術館に来るようになったの?」
「んんと、小学生くらいかな」
「小学生?! 早いね。なんかきっかけでもあったの?」
「小学生の頃、見学学習みたいので美術館に行く機会があって。きっかけはそこかなあ」
「へえ! 大人だったんだね」

全然、と言いながら照れ笑いをする白鳥さん。

「中野君は、美術好きって高尚なものみたいな印象持ってるのかもしれないけど、私の場合はもっと単純なの」
「単純?」
「一目惚れ」

その単語に、どきりと胸が高鳴った。

「なんだかわからないけど目が離せない、何日経ってもふとした時にその絵のことを考えちゃう。そんな出会いがあっただけ。……ね、単純でしょう?」

そう言って、子どもっぽくくすくす笑う白鳥さんは、とびきり可愛かった。

「一目惚れ……って、ありですかね」
「全然ありだよ。特に絵画なんて、むしろ一目惚れしてなんぼだと私は思う」

俺の鼓動は最高潮になっていた。


「初デートの時に唐突に告白されるとは思わなかった」と白鳥さんに茶化されるようになるのは、また別の話だ。

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