大学を卒業して、就職して、結婚した。
それが普通だと思っていたから、そうした。
いつからだろう。妻との会話が減っていた。私が遅く帰ってきても出迎えてくれなくなった。今では本当にただの同居人という感じだ。
金曜の夜、大学時代の友人たちと飲みに行った。当時と変わらないノリで、何も考えないで飲んで、話して、楽しかった。
十年交際している女性がいる友人に対して、周りが良い加減結婚しろ、と囃し立てた。
その友人は酔いながらも、少し真面目な口調で言った。
「結婚は目的じゃなくて、ただの手段なんだよ。選択肢のひとつ」
「選択肢ぃ?」隣に座っている奴が言う。
「そう。幸せになるための、ひとつの選択肢。だからそっちの方がいいな、って思ったら選ぶかもしれないけど」
「難しいこと言ってねえでさっさとプロポーズしろー!」
どっと、笑いが起きた。友人も笑っていた。
俺は、場の空気を壊さないように懸命に笑顔を浮かべようとしていた。
気づいてしまったからだ。
俺は、結婚がただの目的になっていたことに。
今まで築き上げてきたものが崩れていくような気がした。